Global Business Trend | DTCビジネスの終わり

Miyuko Ashida
Oct 1, 2020

昨年、この広告動画に魅了され、コアラマットレスを購入した。日本では今DTCブランドに関して記事が書かれたり著書が売り出されたりして、ちょっとしたDTCブームが巻き起こっている。しかし、DTC発祥の地アメリカでは、早くもDTCは終わりに近づいているという話がある。

アメリカの初代DTCブランドは、主に以下。
Warby Parker:自宅にメガネフレームが5つ送られ、試着できる。フレームを選んで購入、または返送できる。DTCブランドの先駆者と呼ばれる。
Away:スーツケースブランド。おしゃれで丈夫なスーツケースが安く購入できる。旅行関連記事などコンテンツとブランドを絡めたところが、伸びポイント。
Casper:マットレスブランド。コアラマットレスと同じようなビジネスモデル。若者向けのSNSを駆使した施策と、電車広告のOOHなど伝統的な広告媒体手法を掛け合わせたブランディングが秀逸。
Outdoor Voices:10–20代女性に人気なアクティブウェアブランド。ファウンダーのTyler Haneyも24でこのビジネスを立ち上げ、インスタグラマーのように自らブランドをPRして話題に。
Brandless:SoftBank Vision Fundが投資。アメリカ版無印のような存在を目指していた。「ブランドのないアマゾン」として、e-commerceに力を入れ、自社の生活必需製品を売っていたが、2020年2月10日に経営破綻。
Everlane: 「圧倒的に透明性の高いブランディング戦略」をが売りのアパレルブランド。どこで何が作られていて、どのようなプロセスで服が自分の手元に届いているのか、明確に説明。2月に日本語サイトが設立された。

こんなに多くの成功ブランドがある中ではなぜ、DTCの終わりが叫ばれるようになってしまったのか。いくつか原因となり得る要素を洗い出してみた。

1.過酷な労働環境や、ずさんな財政管理
Away:
一躍話題になったのが、「verge」というサイトに載ったAway元従業員の告白。この記事を筆頭に、ドミノ倒しのようにDTCブランドの過酷な労働環境が公になっていく・・・
Away CEOのSteph Koreyはかなり従業員に厳しかったよう。下記が挙げられていた一連の騒動だ。
・夜22時ごろに、slackがオンラインになっているマネージャーが何人もいるのが見えているから至急返事を、と促す。
・「キャリアアップの機会が欲しい」とリクエストした従業員チームに対して、「キャリアに一番大切な責任感を磨くトレーニングを始める」と称し、「カスタマーエクスペリエンスの向上が数字的に5日間連続で見えるまで、有給やリモートワークを一切禁止」する
・会社の理念を”customer obsessed, empowered and in it together”(顧客のことを執着するくらい一番に考え、エンパワメントを大事にし、チームワークを大切にする)とし、休みをとることはこの理念に反していると従業員に伝える
・ミスは全社員参加のslackチャンネルで指摘

Awayの安価で丈夫の上おしゃれなスーツケースは、休みを返上してまで働いている従業員のおかげで保たれていたのか・・・。個人的にAwayのスーツケースを愛用しているので、とてもショックだった。

FounderのStephはこの記事を受けAwayを退き、今は別のCEOが入っている。Co-founderだったJenniferはどちらかと言うとinfluencerのような役割を担っていたらしい。

Outdoor Voices:
10代- 20代の女子に絶大な人気を誇るアウトドア・アクティブウェアのブランドだったが、新卒の子達を安い賃金で雇っていたことが発覚
また、instagramなどのSNSで高いプレセンスを上げており、#doingthings というタグラインが好調だったが、ビジュアルにお金をかけすぎて、撮影予算は一回$50,000 — &100,000(500〜1000万円)まで高騰。店舗で配る水のボトルには年$20,000(200万円)ほど出費。
リアル店舗も次から次へと開けたが、ファンドマネーを使い切り、レベニュー以上の出費で赤字に。2018年には赤字が$21million(約21億円)まで達し、そのうちの$3million(約3億円)はデッドストックの使われていない生地への出費だったことが明らかになり、財政管理のずさんさが明らかになった。CEOのTyler Haneyは2020年2月にCEOを辞任

Everlane:
Everlaneでも、不当な解雇が元従業員の告白により明らかに。

2. DTC市場の飽和状態:強いブランドアイデンティティを保つ難しさ
Brandless:
2020年2月に破綻したBrandlessの失敗で明らかになったのは、プロダクトがどんなに良くても、未来を見据えたブランドストーリーを考えないと、消費者は飽きてついて来ないということ。Brandlessは、商品が良ければ消費者は自然と購入すると考え、各商品に名前を付けたりするのをやめて、無駄なコストを省くことが目的だったが、商品を売るのにいかにマーケ戦略やコピーが大切かが明らかになった。

3. サプライチェーンのスケール化が難しい
従来のブランドで見る、複雑な物流のミドル部分を省いているのがDTCのビジネスモデルだが、省いてしまうことでスケール化していくのがどんどん難しくなる。拡大しようとすればするほど、物理的な障壁が生まれる。
また、Casperのようにミドル部分を省きたいので、スケール化の対策として、他社のマットレスを作る工場に自分たちのマットレス制作も依頼すると、プロダクトの差別化ができなくなる。

4. VCファンディングのプレッシャー
ベンチャーキャピタルからお金をもらうと、当たり前だがプロフィット優先になるため、とにかく利益を出すことをブランドが目的とし、本来のブランドアイデンティティなどが薄まっていってしまう。DTCに最も必要な強いブランドアイデンティティが隠れてしまうと、利益も出せないという悪循環に陥る。

5.インフルエンサーマーケティングの終わり?
Casperの成功は、強いインフルエンサーマーケティングが背景にある。届いたマットレスを開ける”unboxing video”などが話題になり、Kylie Jenner (「史上最年少の資産10億ドル超え富豪」に選ばれた著名人)などの有名人を起用してマットレスを初めて買う若い世代にアプローチ。しかし、インフルエンサーマーケティング市場も、現在は縮小傾向にある

では、D2Cとして成功する秘訣は?私なりに考えてみた。

1.ブランドの理念(Brand Purpose)をしっかり持つ
現在、私が個人的に成功していると思うD2Cブランドは、オーガニックタンポンなど女性の生理用品を作っているLolaと、「女性の仕事着」を提供するM.M. La Fleur(ちなみにファウンダーは日本とハーフの、Sara Miyazawa Lafluer)。両者とも、「女性のエンパワメント」を第一に掲げ、明確なブランドビジョンを持っていることが、消費者からも簡単に理解できる。

2. 経営者は経営に専念する
インスタグラマーやインフルエンサー上がりの経営者は、ブランド認知を獲得する初期にはとても効果的。しかし、AwayやOutdoor Voicesの失敗例を見ると、拡大して組織をマネジメントするようになった段階では、表向きの施策やPRに注意が行き過ぎて、混乱を招いたり、従業員やお金の管理ができなく会社をダメにしてしまっている。AwayのStefとJenniferや、Outdoor VoicesのTyler Haneyは、自分たちの名前をたくさん露出し、インフルエンサーのような役割も果たしていた。一方LolaやM.M. Lafluerは、経営者が顧客に直接理念を説明したりメッセージを発信し、メディア露出はしているものの、「彼らの会社」というイメージを世の中に出していない。

3. Price point and frequency (プライスポイントと、購入頻度)
マットレスやヨガウェア、スーツケースなどは、毎日購入するものではない。Lolaのような生理用品や、EverlaneやM.M. Lafleurのような衣服類は、毎日使用する生活必需品である。使用頻度が高い商品で、クオリティを担保し価格設定を高めにできる方が、DTCビジネスには取り扱い安いのではないかと思う。

4.なるべくVCからお金をもらわない・・・?
このポッドキャスト(NPR- How I Built This: MM.Lafluer Sara Lafluer)で、MM LafluerのCEOが、VCマネーをもらわず、家族や友達に支援してもらったことが、結果的にビジネスに良かったと話している。彼女曰く、VCが入らなかったことで、自分のブランドを保ち、利益を上げることだけに集中するような経営判断をしなくて良かったと語っている。

5.資金をショートさせないパトロンを持つ
VCでも銀行でもないところからお金をもらえるようにする。例えば、セラノス(血液検査のスタートアップ)で有名になったエリザベス・ホームズは通算700億円の調達に成功。彼女の場合、ビジネスに実態がなかったのが最大の問題だったが、VCや銀行以上にエンジェルからの資金調達を成功させていた。お金の余裕は気持ちの余裕は、どのビジネスでも同じ。

6. 最終的には大手に買われることを目標とする
Dollar Shave Clubは、髭剃りの刃やシェービングクリームを、購入者の好みに合わせて、毎月のサブスクで送られてくるというビジネスモデル。(女性用品だと、似た物でBillieFlamingoがある)このDollar Shave Clubは早い段階でUnileverに買収された。D2Cブランドも業界大手とタッグを組むのが、結局は最善策だと思い始めているのかもしれない。

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